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【声でグラスを割る!】共振現象と固有振動数

 

 

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声でワイングラスを割る

以下の動画で約1分あたりから、声でワイングラスが割れるシーンが見られます。

www.youtube.com

 

動画では「奇跡の声」とか、「不可能を可能にする」などと煽られていますが、物理的にこれは誰にでもできることです。

 

物体には必ず固有振動数というものが存在します。

 

この固有振動数と同じ振動数の力が加わると、エネルギーを無限に受け取り続け、振幅は無限大に発散してしまうのです。(もちろん現実では無限に到達する前に、壊れるなどの物理的な変化が生じる)

 

今回はこのガラスが声で割れる仕組みを、固有振動の観点から見てみましょう。

 

振動とは 

振動の要因

物体が振動している時、物体には一体何が起きているのでしょうか。

右にいったり左にいったりする物体には、右に行く力や左に行く力が交互に掛かっています。例えば以下の図で、xを位置として、x_1では右に行く力F(x_1)が、x_2では左にいく力F(x_2)が生じているとしましょう。

 

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x_1からスタートして、右の方に行った物体は、x_2に到達して左方向の力を受けて、左方向に戻っていきます。そして、再びx_1に到達したら、また右方向へ移動する(以下これを繰り返す)のです。

 

すなわち位置xを変数とした、力F(x)が物体に生じることで、物体は動き出します。その力F(x)が場所によって左になったり右になったりするため振動するのです。

 

実は物体は多くのものが目に見えないレベルでありますが、振動しています。

音が出るのも空気が振動しているからであり、キーボードを叩くたびに音が出るのも、空気を揺らすに値する振動が目に見えないレベルで生じているからです。物体によって、その振動の特性は異なってきます。

 

運動方程式

一般に物体の運動を記述する方程式を運動方程式と呼びます。

 

\displaystyle m\frac{d^2x}{dt^2}=F(x)

 

ここでmは物体の質量、xは位置、tは時間で、F(x)が力です。

位置の時間による2階微分\frac{d^2x}{dt^2}は加速度であり、「力が加わると、物体には加速度が加わる」と言うことを、運動方程式は表しています。

 

一般に

 

位置を時間で微分したら速度

速度を時間で微分したら加速度

 

となります。

 

(決して、力が加わると物体は速度を持つわけではありません。等速直線運動をする物体は、速度を持っていますが、力は加わっていません。進行方向とは逆の力を加えて、負の加速度を与えることで減速していきます。力と比例関係にあるのは加速度です。

 

 

振動は、この力F(x)xに応じて正(右)になったり負(左)になったりすることで生じる現象と言えます。 

 

振動の運動方程式 

単振動

単振動はF(x)=-kxの場合に生じる現象です。

原点x=0より右を正、左を負としたときには、物体が原点より

 

1.右側にいるとき(xが正)では左側に力がF(x)が負

2.左側にいるとき(xが負)では右側に力がF(x)が正

 

となります。

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このようなケースはバネに繋がった物体などで考えることができます。

 

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単振動の運動方程式

運動方程式はF(x)=-kxを代入して

 

\displaystyle m\frac{d^2x}{dt^2}=-kx

 

と求まります。

時間tによって位置xは変わるので、xは時間の関数x(t)です。これを明記すれば、

 

\displaystyle m\frac{d^2x(t)}{dt^2}=-kx(t)

 

となります。

xの一次の項までしか含んでおらず、x(t)に関してtの2階微分を含むため、この形式の方程式は全般的に「2階線形微分方程式」と呼ばれます。

 

運動方程式を解く 

今回は微分方程式の解き方を解説するのが目的ではありません。

さらっと終わらせましょう。

 

\displaystyle m\frac{d^2x(t)}{dt^2}=-kx(t)

 

\displaystyle \frac{d^2x(t)}{dt^2}=-\frac{k}{m}x(t)

 

この形の方程式を見ると、「xtで2階微分すると、符号が変わって\frac{k}{m}xになる」と言い換えることができます。つまり、「xは2階微分すると符号が変わって自分自身に戻る」という性質を持った形になっているはずです。

 

天下り的になりますが、そのような関数としてx=\sin(t)というものが考えられます。

 

\displaystyle \frac{dx}{dt}=\cos(t)

 

\displaystyle \frac{d^2x}{dt^2}=-\sin(t)=-x

 

です。あとは、2階微分したら係数\frac{k}{m}が現れるように調整したいので、x=\sin(\sqrt {\frac{k}{m}}t)と調整してしまいましょう。

 

\displaystyle \frac{dx}{dt}=\sqrt {\frac{k}{m}} \cos \left( \sqrt {\frac{k}{m}}t \right)

 

\displaystyle \frac{d^2x}{dt^2}=-\frac{k}{m} \sin \left( \sqrt {\frac{k}{m}}t \right)=-\frac{k}{m}x

 

ということが確認でき、以下のことが言えます。

 

x(t)=\sin \left( \sqrt {\frac{k}{m}}t \right)

 

 

 \displaystyle m\frac{d^2x(t)}{dt^2}=-kx(t)

 

解の1つである。同様に、

 

x(t)=\cos \left( \sqrt {\frac{k}{m}}t \right)

 

も解の1つにになります。2階の微分方程式は、何でも良いので異なる解を2つ見つければ解けたことになります。一般解は、異なる2つの解の線型結合で表され

 

x(t)=C_1\cos \left( \sqrt {\frac{k}{m}}t \right)+C_2\sin \left( \sqrt {\frac{k}{m}}t \right)

 

で表されます。

 

ちなみに同じ振動数の\sin\cosが混ざっても、振幅と位相のずれた\sinになるだけで、決して汚い振動になるわけではありません。(加法定理から言える)

 

従って、一般解を

 

x(t)=C\sin \left( \sqrt {\frac{k}{m}}t +θ\right)

 

C=\sqrt{C_1^2+C_2^2}

 

\displaystyle θ=arg\tan \frac{C_2}{C_1}

 

Cθを2つの定数として表しておくこともできます。

 

 

細かいことはさておいて、質量mの物体がバネ係数kのバネに繋がれてたら

 

C\sin \left( \sqrt {\frac{k}{m}}t +θ\right)

 

で揺れますよということです。

 

このとき, 

 

\displaystyle \frac{k}{m}

 

を固有振動数と呼びます。

 

補足

2階の微分方程式では積分定数が2個出てくる。係数はC_1,C_2は積分定数が反映されたものだと考えればいい。そして、\sinになるのか\cosになるのか、はたまた混ぜたものになるのかは、物体の位置の初期値、速度の初期値に依存する(まさしく積分定数は初期値を扱っている)。

 

具体的には、バネに繋がれた物体の位置を、バネの自然長の位置をx=0として、x=1の地点を初期値とし、速度の初期値を\frac{dx}{dt}=0として与えれば振幅1\cosの揺れになる。

逆に、バネの位置の初期値を0として、速度を与えれば\sinの揺れになる。両方に初期値を与えれば2つが混ざった振動になる。

 

 

 

発展的補足

ただし、線形ではない(非線形な)振動も実際には存在します。実は正確には非線形な振動の方が多いです。しかし、非線形であっても多くの場合に(例えば微小な揺れなど)は、それを線形に近似することができます。心配なさらぬよう。

 

しかし、一般的には運動方程式は

 

\displaystyle m\frac{d^2x}{dt^2} = -\frac{dU}{dx}

 

\displaystyle F(x)=-\frac{dU}{dx} 

 

というのが実際のところです。U(x)はポテンシャルと呼ばれるエネルギーの一種であり、ポテンシャルから力が生じてきます。

 

負が付いているのは、物体はポテンシャルを小さくする方に力が加わることを意味します。例えばポテンシャルの一種として位置エネルギーがあります。位置が高いほうがポテンシャルが大きいのですが、通常物体は低い方へ移動していきます。

 

仮に

 

U(x)=C + ax+bx^2

 

という形で表せた場合には、

 

\displaystyle F(x)=-\frac{dU}{dx}=-a+2bx

 

となり力F(x)xの一次の項までで表現できます。従って、ポテンシャルを考えた時に、x^2の項までを考慮すれば十分に精度が保てる場合に置いて、力は位置のxの項で判断できるようになり、運動方程式が線形になります。

 

線形でない限り、「2階の微分方程式は異なる解2つを見つけて線形結合すればいい」という方法は取れません。

 

声でガラスが割れる理由

運動方程式の話の復習

質量m、バネ係数kの場合、物体は

 

C\sin \left( \sqrt {\frac{k}{m}}t +θ\right)

 

というふうに揺れることを確認しました。

まず、初期値を以下の状態にしましょう。

 

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この状態で、物体を蹴っ飛ばして速度を与えれば、物体が振動するのは容易に想像できます。そしてその際の振動数は

 

\displaystyle \frac{k}{m}

 

であり、これを固有振動数と呼ぶわけです。

 

固有振動数というのは、完全にその物体の構成に宿っているものです。適当に速度なり位置なりでエネルギーを与えたら、物体に備わっている固有振動数で揺れ続けます。

 

それはおおよそ以下のように表すことができたのでした。原点右側では左に戻ろうとして、原点左側では右に戻ろうとするのです。

 

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さて、このような性質の物体に、更に外部から力を加えてあげるとどうなるでしょうか。

 

物体を静止させる

原点より左側にいる時に右に行く力が(バネにより)掛かっているために、右に行こうとします。この力と同じ大きさと力を左側に掛けてやると、物体は静止します

 

ここでは(非現実的だが)バネの力に釣り合うくらいの強風が吹いているとしましょう。すると物体は強風に押される力と、バネの伸びる力に挟まれて静止します。

 

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物体を加速させる

同じシチュエーションで強風が右向きならばどうでしょう。

 

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バネの伸びる力と強風のハイブリッドによって、物体はいつもより大きな加速度得ます。

そしていつも以上の勢いで原点を通過していくことでしょう。そして更に、いつもよりもバネを大きく伸びていくはずです。なぜなら強風からエネルギーをもらっているためです。

 

物体を共振させる

さて、強風で勢いをつけたことにより、いつもよりバネは伸びました。これにより、バネが左に物体を引き戻す力もより一層強まっています。ここで更に、今度は左向きに強風を与えてやりましょう。

 

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物体はさらに勢いを増して左側へ戻って行こうとします。

 

これを繰り返すのです。物体がバネによって動いているタイミングと、同じように外からそれを助けるように力を与えてやるのです。物体はバネにエネルギーをどんどん貯めこんでいきます。

 

  1. バネ+強風で加速度アップ
  2. 加速度アップにより速度がアップ(エネルギーアップ)
  3. バネがいつもより長く伸びる(伸びきった時の位置エネルギーアップ)
  4. バネ+強風で加速度アップ
  5. 以下繰り返す

 

そして、物体の振動というのは質量m、バネ係数k


\displaystyle \frac{k}{m}

 

の振動数を持つということを知っています。従って、強風をこのタイミング、すなわち物体の固有振動数に合わせて方向を切り替えて与えてやれば、上記のように激しく振動をさせることができます。

 

まとめれば、外力の振動数を固有振動数と一致させるということです。

 

\displaystyle m\frac{d^2x}{dt^2}=-kx

 

という運動方程式で動く物体があれば、更に固有振動数と一致する振動数を持つ力F_{in}を追加してやることで激しく振動させることができます。

 

\displaystyle m\frac{d^2x}{dt^2}=-kx + F_{in}

 

振動している物体から影響を受けて振動現象を引き起こすことを共振と言います。今まで風によって物体に共振を誘起させる方法を見てきたわけです。

 

※強風がこんな都合よく振動することなんて無いです。一例です。

 

共振現象

冒頭の動画

まさしく冒頭の動画は、ワイングラスの固有振動数に近い高さの声を当てていることによって起こる現象です。声の高さは、声帯の振動の周波数によって決まります(ちなみに声色は倍音成分で決まる)。

 

この声の高さによる振動数の調整と、ワイングラスの固有振動数を一致させることができれば、あなたにでもガラスを割ることができます。声を正確に調整できるかは別として、物理的には誰でも達成できることなのです。

 

迷惑な事例

大抵、振動とは邪魔なものです。愉快なものではありません。この手の研究は、むしろ共振を防ぐ目的である場合が多いです。

 

例えば自動車に関しても、高速で走行している時のほうがエンジンの動きは活発であり、激しい振動をしていることが予想できます。しかし、古い車に乗っていると、むしろ低速時の方(特にアイドリング時)が振動が大きいと感じることがあるのではないでしょうか。

 

これは自動車のボディーであったりシートであったり、人の快適さに関わる部分の固有振動数に由来します。エンジンの振動によって、人間に不快を与えない工夫は様々ですが、やはり共振周波数近くでの現象は完全に避けることは難しいです。

 

また摩訶不思議な話ですが、超高層ビルがひどく激しい揺れに見舞われたということがありました。しかしニュースを見ても地震など起きていません。なんとその振動の理由は低層階で活動していたフィットネスクラブだったのです。

フィットネスクラブでは大人数が同時にステップを踏みます。そのステップのリズムが高層ビルの固有振動数に一致していたという珍事件です。

 

 

地震対策の動吸振器

建物を揺れの被害から守るために、高層ビルには動吸振器なるものが取り付けられています。これは、物体の方程式に動吸振器の方程式を加え、連立方程式にすることで固有振動数に相当する部分をなくしてしまおうという方法です。

 

 

最後に

振動というのは自然界に当たり前のように存在しています。目に見えるものからそうでないものまで、たくさんのものが振動を考えることで理解できる場合があります。

 

今回は単振動という最も簡単な例でしたが、他にも減衰振動や発散振動、強制振動、自励振動など様々な振動の形態があります。是非振動に興味を持ったら学んでみると面白いかもしれません。

 

 

 

短期集中:振動論と制御理論    工学系の数学入門

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 振動の現象とフーリエ解析には深い関係があります。

 

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